長崎大島のトマト

 大島トマトが甘くて美味しい。
 先週、長崎旅行した際に狩ってきたトマトが赤く熟したので食し中。造船の町で造船会社が始めたトマト農園、というと映画『フラガール』のハワイアンセンターみたいだが、きっと開業したばかりの頃には同じような苦しみがあったに違いない。しかも、独特の農法で育てる独特なトマトだから、市場に受け入れられるまでの苦労は並々ならぬものがあっただろう。
 大島造船所を見下ろす高台に、ビニールハウスは並んでいた。そこは地味に乏しく、農作に向いた土地ではないという。けれど、あえてその場所でトマトを作ろうと考えたのには確信があったからだろう。
 トマトはもともとアンデス山地原産の野菜だから、乾燥した大地と少ない降雨量でも育つらしい。日本では夏の野菜というイメージが強いから水分が必要と思い込んでしまうけど、大島トマトには必要最低限の水と肥料しか与えない。少ない滋養を必死に吸い上げて苗が育つと、今度は水の供給もストップする。葉や茎は枯れてしおれたようになるけれど、次第にそこに産毛が生えてくる。大地から滋養を吸収できなくなったトマトは、産毛を使って大気中から養分を摂取しようとし始める。確かに、茎には産毛が繁茂していた。こうした自生の力強さを信頼して過酷な環境を再現するスパルタな育て方の結果、実は赤く色づいて収穫期を迎える。これが他のトマトより栄養価が高いのだから、自然の営みは不思議だ。