2019-01-01から1年間の記事一覧

八犬伝覚書 天翔ける龍に始まり、龍女の成仏に終わる

『南総里見八犬伝』発端のエピソード、里見義実・伏姫説話は、龍の目撃に始まって龍女成仏で終わる。龍女成仏とは、『法華経』巻五第十二「提婆達多品(だいばたったほん)」における悟りに至る物語のことだ(龍女のことは、義実の龍の薀蓄でも語られている…

【現代語訳】曲亭馬琴『南総里見八犬伝』第九輯中帙附言(稗史七法則)

『南総里見八犬伝』は、文化十一年(1814)の春、平林堂(弓張月の版元)から出版しようと第一輯の企画を起こした。しかし、すでに平林堂主人は七十歳の老齢、長編の刊行を果たしきるには心許ないと、版元仲間の山青堂に譲りたいと申し出られた。私はその意…

八犬伝覚書 万葉集と沼藺(ぬい)

八犬伝を読むとき、行徳の段はちょっとした難関になりそうだ。言葉が難しかったり、人間関係が複雑だったりするからではない。八犬伝の特長である、入念に敷かれた伏線回収の見事さには舌を巻く。ストーリーは目まぐるしく動き、読んでいて飽きることはない…

八犬伝覚書 芳流閣のモデルを考えてみる

『南総里見八犬伝』前半の山場に、芳流閣の決戦がある。犬士二人が互いの素性を知らずに戦う名場面である。芳流閣のない八犬伝は考えられない。 足場の悪い屋根の上で互いの技倆を尽くして干戈を交える。その舞台である芳流閣を、馬琴は大げさなほど修飾して…

八犬伝覚書 百姓一揆との類似性

ゾイレは慎重に手を伸ばし、スロースロップの頭上からヘルメットを被せる。両側からケープを掛ける女たちの手つきも儀式めいている。(中略) 「これでよしと。実はな、ロケットマン、ちょっと聞いてほしいんだが、わしはいまちょっとしたトラブルに……」(佐…

八犬伝覚書 巨田道灌について

リアルな効果を狙う子供っぽい配慮から、もしくは最善の場合、ごく単純に便宜上であっても、架空の人物に架空の名前をつけることほど俗っぽいことがあるだろうか? 『HHhH』(ローラン・ビネ)の冒頭に置かれた小説という媒体を巡る、短いがスリリングな洞察…