2022-01-01から1年間の記事一覧

【リライト】曲亭馬琴『近世説美少年録』発端部3

近世説美少年録 3 白蛇と大鳥 大江弘元は手勢を指揮して洞穴の前後を塞いだ。彼の精兵三十余人が逃げる山賊を斬り伏せ、生け捕り、勇猛果敢に休む暇なく賊を誅し続ける。 一方、川角連盈は慎重に隙を窺っていた。この死地を切り抜けようと頼みの手下十余人…

十三時の鐘は何回鳴ったのか?:ジョージ・オーウェル『一九八四年』雑考

ジョージ・オーウェルの名作『一九八四年』は、以下の有名な文章によって始まる。 四月の晴れた寒い日だった。時計が十三時を打っている。(高橋和久訳) 原文はこう。 It was a bright cold day in April, and the clocks were striking thirteen. 『白鯨』…

柔らかい室内にあるガラスの動物園:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出『ガラスの動物園』雑感

新国立劇場でイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出『ガラスの動物園』を観た。イザベル・ユペール主演。もともと二年前の公演予定がコロナで延期し、昨年も企画されたがまた延期となり、今年ようやく公演が実現した。イザベル・ユペールのアマンダには二年分の期待…

李禹煥展 雑感

国立新美術館で開催中の李禹煥展に行ってきた。 岩と、ガラスや鉄などでできた「関係項」シリーズは何度見ても良い。「もの」を前にした鑑賞者(自分)はどこにいるのかという認識を含んだ作品だと自分は理解しているが、岩と自分の関係だとすれば(もちろん…

【リライト】曲亭馬琴『近世説美少年録』発端部2

近世説美少年録 2 大江弘元 阿蘇沼氾濫の夜。 本陣にいた大江備中介弘元は、襲いくる沼水の勢いに抗えず押し流された。ほとんど溺れながらも水面へ顔を出し、懸命にもがくうち肘近くに流れてきた盾を取った。それを胸に押し当てて泳ごうとしたが、水勢は緩…

【リライト】曲亭馬琴『近世説美少年録』発端部1

近世説美少年録 1 阿蘇攻め 足利義稙が二度目の室町将軍に就くと、周防、長門、豊前、筑前、安芸、石見、山城の七ヶ国の守護、大内左京権大夫多々良義興がその功労から管領代に就任した。管領職は細川、畠山、斯波の三家のみ任じられる役職だったため、極め…

去年マリエンバートで:アラン・レネ監督『去年マリエンバートで』雑考

「つい去年の夏も、私は、マリーエンバートで……」 エッカーマン『ゲーテとの対話』1824年2月29日、日曜日(山下肇訳) 『去年マリエンバートで』という映画。アラン・レネ監督、アラン・ロブ=グリエ脚本。名作と言われ、難解と言われる。豪華なセットや衣装…