2010-01-01から1年間の記事一覧

映画とYouTubeについて:ジャン=ピエール・ジュネ監督『ミックマック』雑感

恵比寿ガーデンシネマで『ミックマック』を観る。もしかしてこれ映画館で見るの倒錯なのかとつい思ってしまった、ジュネ版スパイ大作戦。『アメリ』のときにも思ったけど、なんというか、ジュネってキッチュであることを恐れないなぁ。マルク・キャロがいな…

シンプルイズベスト

ようやく『月に囚われた男』をDVDで観た。ネタばれにご用心ください。 いろんな意味でシンプルさが効果的に機能している秀作。無駄をそぎ落としたストイックな設定とストーリーと登場人物と語り口。B級感溢れる映像も滑稽味があっていい。 監督デビュー…

備忘録。

おや、『わたしを離さないで』が映画化されてる(ん? 情報遅い?)。偶然ネットで見付けた予告編を見て、ちょっとウルウルきてしまった。予告編の作りは、原作イメージ同様に静かで穏やかでドライな感じ。期待が高まるじゃないですか。キャシー・H役はキャ…

夏の読書感想文③:トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』雑感

彼等をして、故国を離れ、荒波に乗出し、この世の果てまでも行くぞと決意せしめたものは、――此処にいらっしゃる天文関係者の方々には失礼ながら、――天の出来事それ自体ではなく、寧ろ、もっとずっと卑小な、人間の様々な欲求の集まりだったのであり、金星が…

夏の読書感想文②:レオニード・ツィプキン『バーデン・バーデンの夏』雑感

『バーデン・バーデンの夏』レオニード・ツィプキン著(新潮クレストブックス)。穏やかで静謐感に満ちた美しい小説である。ゆっくりと時間をかけて読んだ方がいいんだろうな。寝る前に少しずつ、少しずつ読み進めてゆくような。読み返すときにはそうしよう…

夏の読書感想文①:鎌池和馬『とある魔術の禁書目録』雑感

『とある魔術の禁書目録』既刊23巻(SS2巻含む)を大人買い&一気読み。いやぁ、おもろい。おもろいよ!! 圧倒的なスケールと情報量、次々に投入される魅力的なキャラクター、そのうえめくるめく展開の速さにストーリー自体の面白さと、まぁ語りたき事柄は…

一瞬と時間:クリストファー・ノーラン監督『インセプション』雑感

先月、森山大道さんとお話をさせて頂く機会があり、以来、写真というメディアの特殊性についてしばしば考える。演劇、映画、音楽、文学等のいわゆる「表現媒体」が、アリストテレスが詩学に謂うところの「始まりがあって中間があって終わりがある」線形時間…

フィクションとしての身体について:スティーブン・ソダーバーグ監督『ガールフレンド・エクスペリエンス』雑感

『ガールフレンド・エクスペリエンス』を観る。ときどき出現する「物語らないソダーバーグ(または、真面目なソダーバーグ)映画」である。だからこの映画を観て、「ストーリーがないことを時間軸をずらす編集で誤魔化しただけ」なんて言っても始まらない。…

林檎は赤とは限らないわけで……

……一応、書いとこう。ま、備忘録として。 先日、iPadを起動させるのにiTunesが必要だと知る。使用OSはWindowsならXP以上、macOSに限っては10.5以上だという。Windowsは二つヴァージョンが進んでいるが、macOS10.5は最新版というじゃないか。macユーザーはiPa…

「しょうがない」を肯定する:石井裕也監督『川の底からこんにちは』雑感

「しょうがない」という言葉にはネガティブなイメージがあり、妥協の表明として機能する。人生は妥協の連続だから「しょうがない」ことだらけだ。でも、うっかり「しょうがない」を連発していると愚痴っぽい奴と思われて、損することもしばしば。だから、し…

現代的な普遍論争:フランセス・イェイツ『薔薇十字の覚醒』雑感

AppleとAdobeのFlashを巡るニュースが騒がしい。ウェブの標準においてひとつの重要なファクターがオープン性なのだと改めて認識できる興味深い事例だ。 ジョブス自身が言及しているように、AppleとAdobeは長らく蜜月関係にあった二社である。ことの発端は、A…

雑記。

先日、柏餅を頂いた。美味しい。「味噌餡」という白味噌を練り合わせた餡が入っていた。味噌を加えることで独特な酸味が加わり、甘ったるくなくさっぱりした味わいになっている。 この味噌餡というあんこを、僕は知らなかった。東京では普通だそうだけど、僕…

日本語では「高い家」です。:荒川弘『鋼の錬金術師』雑考

フィリップス・アウレオルス・テオフラストゥス・ボムバストゥス・フォン・ホーエンハイム。 ――通称、《パラケルスス》。 16世紀を生きた北方出身の医者は、30歳そこそこでバーゼル大学の教授になったとき、慣習を破ってドイツ語で講義した。世は宗教改革で…

昔、北綾瀬に住んでいたとき違う橋を渡りたいと思って荒川河川敷を2、3キロ歩いた末、巨大な柵に行く手を阻まれて断念したことがありました。:中村光『荒川アンダーザブリッジ』雑感

唐突ですが、フィクションの雛型の中ではなんだかんだ言っても《ボーイ・ミーツ・ガール》型が最強だと思うのです。ん、最強は表現が変だな。「基本にして万能」が正しいかもです。 問. ボーイ・ミーツ・ガール型って何? 答. 男の子が女の子と出会う話で…

1327。1434。1492。1527。

不定例回帰的に訪れるマニエリスム中毒に現を抜かし、近ごろローマ劫掠(1527年)ばかりに目が向いていたが、アタリの『1492―西欧文明の世界支配』(ちくま学芸文庫)などを読んでみると、《ヨーロッパ》って常に危機的状況にあるんじゃないのか、と改め…

雑記。

渋谷パルコPart1地下一階の書店〈リブロ渋谷店〉の店員さんが達筆で驚く。領収証の但し書、「書籍代」の文字。 手慣れたものでボールペンですらすら書いてくれるのだけど、何気ない崩し字がバランスよい。最も印象深い「書」の字はこんな感じ。……横線をすっ…

全能の監視者について

まず―― 「マニエリスムが誠実とは、いったいどういう意味だ?」 と、二つ前の記事の文責帰属を持つ主体なるものに問いたい。つまり、4月25日の僕に対して。 話の前提として「それはお前本人だろ」という他者の声をひとまず棚上げする。これは、今の「私」か…

善き人:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督『善き人のためのソナタ』雑感

善行は、救いをうるための手段としてはどこまでも無力なものだが――選ばれた者もやはり被造物であり続け、その行うところはすべて神の要求から無限に隔たっているからだ――選びを見分ける印しとしては必要不可欠なものだ。救いを購いとるためのではなく、救い…

迷子の風景:高山宏『近代文化史入門』雑感

……よく道に迷う。 いや、人生の意味に悩んでいるのでなく、言葉そのままの意味でしばしば迷子になるということ。分刻みで移動するか、さもなくばひきこもるかでなければ21世紀の東京を生きる資格はないのかもしれないが、迷うものは仕方ないのだ。 しかし…

追記?

「allo,toi,toi」(長谷敏司SFマガジン4月号掲載)を読んで、一言。 ――なんということでしょう! 恣意的判断で思考停止し満足してちゃいけないよ、という自戒を籠めて、前掲ブログに編集を加えない。 そろそろ『円環少女』の続きを買おう。今すぐ読むとメ…

「あなたのための物語」という物語:長谷敏司『あなたのための物語』雑感

『あなたのための物語』(長谷敏司)を読んで、一言。 ――この物語が好きだ。エクスキューズは必要ない。 残酷で優しいこの物語を、僕は好きだ。 舞台は2084年、シアトル。科学者であるサマンサは自らが開発した脳を記述できる言語を使用して作った人工知能に…

長崎大島のトマト

大島トマトが甘くて美味しい。 先週、長崎旅行した際に狩ってきたトマトが赤く熟したので食し中。造船の町で造船会社が始めたトマト農園、というと映画『フラガール』のハワイアンセンターみたいだが、きっと開業したばかりの頃には同じような苦しみがあった…

雑記。:チン・マンケイ監督『金瓶梅』雑感

部屋を片付けなければ。GⅠだから馬券買いに行こうかな。知人からチケットを頂いたボルゲーゼ美術館展も行きたいし。読みたい本も溜まってきたよ。でもとりあえずは仕事しよ。などなどと思いながらダラダラ過ごしてしまった。 これは、きっと自由業の第二法…

追記。

まったくどうでもいいことだけど、『金瓶梅』のエンドロールで役名が「moon」とか「rotus」だった。確かに、明月や金蓮をshinin' moon、golden rotusなどと訳されると、それも変だな、と感じそうだ。だったら読みをそのままアルファベット表記にすればいいの…

"Nightwatch":ピーター・グリーナウェイ監督『レンブラントの夜警』雑考

クローチェは内容と形式の相違を認めない。後者は前者であり、前者は後者なのだ。アレゴリーは彼には化けものに見える。まるで暗号のように、一つの形式のなかに、直接的ないし逐次的意味(ウェルギリウスに導かれて、ダンテはベアトリーチェのもとにいたる…

ドラえもんの音

アニメ『ドラえもん』のタイトルシーンで流れるジングルを思い浮かべてほしい。画面の両端にドラえもんがいてひっくり返る。その際、「トゥルルル♪×××」という音楽が流れる(×××はタイトルである)。 では、いま思い浮かべたジングルを口に出して奏でてみよ…

誰も気にしない:ボルヘス「ジョン・ウィルキンズの分析言語」雑感

アンサイクロペディアで見つけた(wikiではないのでご用心)。 誰も気にしない(Nobody cares)は、しばしば「勝手にしろ」とも書かれ、神格者、専制君主、寡頭制、民主主義、一般大衆、飼い主、すべての人、そしてwikiの管理者により使用される方針である。…

鯨の腑の光〜レベッカ・ホルン展(東京都現代美術館)より

四方は壁――。 薄暗い室内に、ミニマル音楽が静かに流れる。中央に置かれた浅い水盤が、絶えることのない光を受ける。照射されては、文字や文字が浮き上がる。 壁と床を文字が這う。水面から生まれた文字や文字が、ゆっくりゆっくり流れゆく。 文字の形は、ラ…

額装と軸装、あるいはフレーム:速水御舟展 雑感

「イメージは枠から外へ出なければならない」と、バチェコは弟子のベラスケスに言ったそうだ。 昨秋、引っ越しした山種美術館で速水御舟展が催された。自分では買わないだろう本や行かないだろう店なんかがあるように、眼に入らない場所というのが存在する。…

納得。

悲劇のテンポを早めれば喜劇になり、喜劇のテンポを緩めると悲劇になる。――ウジェーヌ・イヨネスコ 『君に届け』(13話)見てて思った。 てことは、おまけコーナーのテンポはどっちつかずなのか……。