誰も気にしない:ボルヘス「ジョン・ウィルキンズの分析言語」雑感

 アンサイクロペディアで見つけた(wikiではないのでご用心)。

 誰も気にしない(Nobody cares)は、しばしば「勝手にしろ」とも書かれ、神格者、専制君主、寡頭制、民主主義、一般大衆、飼い主、すべての人、そしてwikiの管理者により使用される方針である。

 日が経てば、編集されてるかもしれないけどね。で――
「『エンサイクロペディア・ブリタニカ』十四版は、それまで収録されていたジョン・ウィルキンズの項目を省いている」
 から始まる、きっと当分は編集されないだろう「ジョン・ウィルキンズの分析言語」(ボルヘス『続審問』所収)から以下。 

 この遥か彼方の書物(『善知の天楼』なる中国の百科辞典)では、動物は次のように分類されているのである――⒜皇帝に帰属するもの、⒝芳香を発するもの、⒞調教されたもの、⒟幼豚、⒠人魚、⒡架空のもの、⒢野良犬、⒣この分類に含まれるもの、⒤狂ったように震えているもの、⒥無数のもの、⒦駱駝の繊細な毛の絵筆で描かれたもの、⒧その他のもの、⒨花瓶を割ったばかりのもの、⒩遠くで見ると蠅に似ているもの。

 こんな真面目なんだか不真面目なんだかわからないボルヘスの文言を引用して、フーコーが真面目なんだか不真面目なんだか分からない分析をしている(『言葉と物』序文参照)。まだまだだな、アンサイクロペディア
 でももしかしたらバベルの図書館に一番近いのはアンサイクロペディアなんじゃないか、と生真面目に考えてみる。誰も気にしない。気にしちゃダメ。
 ちなみに、ボルヘスの引用元は手元にあった『続審問』(岩波文庫)。去年、たまたま書店で目にして購入したこの文庫、なかなかサプライズな仕掛けになっている。帰宅してページを開いてみると、自宅の書棚にある『異端審問』(晶文社)の改訳版という驚きのオチ! 『異端審問』の続きだと思うじゃないか。帯に書いててくれよ。そういや、帯なかったよ。
 ……ま、誰も気にしなかったんだろう。

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